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紫陽花

・聖フェニックス、一角キング

一応キンフェニという枠で書いたので腐向け扱いにしておきます。







雨が降っていた。
取り巻きの女の子達の歓声は心地良いが時に耳障りで、私は見つからぬように大学を抜け出した。
時々使う抜け道だった。
紺色に金糸で刺繍をされたお気に入りの傘を差し、紫陽花の咲く道を歩くと、雨もまた悪くはないという気分になる。
しばらく行くと、紫陽花と同じ色の衣服を纏った幼子が、木の下で雨宿りをしているのが目に入った。
お使いの帰りだろうか、手には袋を抱えて雨が上がるのを待つように空を見上げている。

―天気予報を見ていないのか?

私は傘を持たぬその幼子を一瞥して通り過ぎようとした。
普段なら気にも止めずにそうしたであろう。
しかし今日は何だか気分が良かった。
お気に入りの傘と、美しい紫陽花の道に佇む子供。
絵になるではないか。
私はその子に近付くと、傘を差し出した。

「良かったら、入って行くか?」

声を掛けると、その子は私を見上げた。
漆色の長い髪に瑪瑙のような大きな瞳。
肌は透き通るように白く、まるで紫陽花の妖精のように見えた。

「いえ、私は雨が止むまで待ちますので」

男とも女ともつかぬ声で、子供は丁寧に断った。
用心深いものだと思いつつ、それがまたその子の神秘さを引き立たせた。

「そうか。風邪を引かぬようにな」

無理強いをするのは美しくない。
私はその場を立ち去ろうとしたが、妙に気になったのでもう一度その子を振り返った。
まるで止むことが分かっているように空を見上げるその子に、私は踵を返すともう一度傘を差し出した。

「これを使うといい」

傘を無理矢理持たせると、その子は怪訝な目で、しかし遠慮深げに私を見た。

「何、私の家は近いのだ。遠慮はしなくていい」
「しかし…」

何か言いたげな瞳に微笑みかけると、私は片手を上げて今度こそ立ち去った。
遠くから礼を言う声が聞こえ、私は一人笑った。
雨に濡れるのは好ましくないが、あの子に会ったせいか心の中は晴れやかだった。

「さぞかし美しい天使に育つのだろうな」

―また、会えるだろうか。

どこか淡い期待に満たされた感覚を覚えながら、私は雨の中、ゆっくりと帰路を歩いた。
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