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嘘でもいいから

・化魔王フック、土のサンドラ



うとうとと微睡んでいると、腕にさわさわとくすぐったいものが当たった。
気のせいかと気を取り直して眠気に任せていたが、隣でもぞもぞと動く気配がして化魔王フックは目を開ける。
顔だけ動かしてみたら橙色の豊かな髪が目に入り、ぎょっとして飛び起きた。

「な、何やってんだョ!」

思いっきり布団をはいでベッドサイドの明かりを点けると、橙色の塊は眩しそうに不満気な顔で布団を掴んだ。

「ちょっとぉ~何すんの? 寒いじゃない……」
「何すんの、じゃねぇよ! 何でお前がここにいるんだ!」
「鍵、開いてたよ?」
「そうじゃなくて……」

要領を得ない返事に化魔王は溜息を漏らして頭を抱える。
渋々と身体を起こして座り込む目の前のサンドラを見て、もう一度溜息を吐いた。

「だってぇフッドに追い出されたんだもん。ピーターもいないし……」
「お前、自分の部屋貰っただろ?」

呆れたように問えば、サンドラは口を尖らせて頬を膨らませた。

「一人で寝るの、寂しいんだもん。パパもお兄ちゃんも、私が寂しい時は一緒に寝てくれたよ?」
「あのなぁ……」

今はそのパパもお兄ちゃんもいないんだから仕方ないだろうと思いつつ、化魔王はポリポリと頭を掻いてそっぽを向く。

「……俺は三番目かョ」
「何?」
「なんでもねぇよ」

首を傾げるサンドラに、持ってきたのか二つある内の枕を一つ投げつけた。

「いったーい! 何すんのよ!」
「子供の癖に、ひょこひょこ男の部屋に転がり込むなョ!」
「子供じゃないもん!」

投げ返された枕を受け止めて、化魔王はもう一度サンドラにそれを投げた。

「一人じゃ眠れない~なんて、子供だろ! どうせなら美人の女だったら良かったのにョ」
「うっさいなー! いいじゃん別に! 迷惑掛けてないでしょ!」
「いるだけで迷惑だっつーの!」

言ってからハッとしてサンドラを見れば、案の定彼女は枕を抱き締めて視線を落としている。

「(……面倒くせーな)」

化魔王は頭が痛くなって来たのを感じながら、サンドラをもう一度見た。

「何よ……勝手に連れて来たの、あんたじゃない……」
「おい……悪かったって。つい本音が出ちまっただけで……」
「本音!? じゃあやっぱり本当は私の事邪魔者だって思ってるって事!?」
「あーもう……そうじゃねーって……」
「もうやだぁ……土の大層に帰りたい……パパ……お兄ちゃん……」

今にも泣き出しそうなサンドラに、どうしたもんかと化魔王は痛む頭を抑えた。
フッドに夢中とは言ったものの全く相手にされておらず、かといってピーターからは面倒を見ろと言われ無碍にする事もできない。
子供は嫌いだが、言うほど子供でもなくそれが余計に面倒臭さを生み出している。

「(どうしたもんかね……)」

難しく考えるのも面倒臭くなって、頬杖を突いて化魔王は抱き締めた枕に顔を埋めるサンドラを見た。

「お前、もう俺にしとけば?」

思わず口にしてしまったが、元より深く考えるは苦手な化魔王は驚いて顔を上げるサンドラにそのまま続けた。

「そしたら別に一緒に寝ようが問題ねーし、ちょこまかついてこられても鬱陶しくなくなるかもしんねーし」
「はぁ? あんた何言ってんの?」
「フッドフッドって言っても、フッドさんより俺かっこいいし」
「どこが……」
「それにお前、趣味じゃねぇけどピーター様よりはよっぽど可愛げがあるしな。ああ、そうだ。そうしろョ」
「か、勝手に決めないでよ!」

顔を真っ赤にして怒るサンドラを、化魔王はじっと見つめる。

「俺の事嫌いなのか?」
「嫌いっ……じゃないけど……」
「じゃあいいじゃん」
「そ、そういう軽い感じで言われてハイそーですかって言える訳ないでしょ!」
「軽く言ってるつもりなんて、ねーけど」

とても真剣に言ってるようには見えないが、真顔で言ってくる化魔王は確かに顔だけはかっこいい。
サンドラは状況がよく分からなくなり、困ったように視線を彷徨わせた。

「だって、私はフッドが……」
「どうせ一目惚れだろ?」

図星を突かれてぐぅの音も出ず、抱き抱えた枕に更に力を込めてサンドラは化魔王を見上げた。
確かにディッセ・フッドには一目惚れ同然だったが、クライシス化したフッドはとてもじゃないが自分には手に負えない事は分かっている。
かと言って、それをあっさり捨てたら自分こそ軽い気持ちだったのではないかと思ってしまい、そう簡単には諦めきれないという思いがある。
思いはあるが、フッドが優しくしてくれた事なんて一度もないし、そんな事よりもっと大事な事がフッドにある事も分かっている。
フッドが今、自分の与えた命であるアトランチンの秘宝を探している事が、土の大層の為であればそれだけでも嬉しいが、もしそうでなかったら……そう考えると得も知れぬ不安感で押し潰されそうになった。

「ま、別にイヤならいいんだけどョ」

肩をすくめて寝転がる化魔王を見て、サンドラは更に不安になってぎゅっと目を瞑った。

「……フックは私の事が好きなの?」
「嫌いじゃねーけど」

あっさり返ってくる言葉が少し嬉しい。

「わ、私があんたの事好きだって言ったら、あんたは私の……土の大層の為に動いてくれる?」
「それはできねーよ。俺はあくまでピーター様の為に動いてるだけだし」
「……」

そこもあっさり返され、サンドラは落胆する。
結局自分は非力で、父や兄や大層の為に何も力になれないのかと思ったら悲しくなった。

「そうだよね……でもちょっと嬉しかったかも。ありがと……邪魔してごめんなさい。もう来ないから……」

化魔王なりに自分を元気付けてくれようとしてる事だけは感じて、力なく微笑むとサンドラは礼を言ってベッドから降りて枕を抱いたままとぼとぼと歩き出す。

「それはできねーけど、それ以外だったらお前のワガママ聞くのも悪くはねーって思ってるぜ。少なくとも、ピーター様やフッドさんよりは一緒にいてやれるし」

後ろから声を掛けられ、サンドラは足を止めた。

「……私と遊んでくれるの?」
「いつも遊んでやってんじゃねーか」

苦笑混じりの声に、サンドラはおずおずと振り返る。

「私の事子供扱いしない?」
「それは保証できねーなぁ」

腕を枕にして天井に顔を向けたまま笑う化魔王にちょっとムッとしつつも、サンドラは再びベッドに駆け寄るとその顔を覗き込んだ。

「ピーターは私の事、いい女になるって」
「ピーター様もヤキが回ったんじゃないか?」
「ピーターに言いつけるよ?」
「あ、それは勘弁……冗談だって……子供だと思ってないから言ってんだろ。それぐらい分かれよ」
「からかってんの!?」
「お前、からかうと面白いんだョ」
「もう!意地悪!」

手にした枕で殴られて、化魔王は笑いながらそのままサンドラを枕越しに抱き寄せた。

「私の事、好き?」
「嫌いじゃねぇけど、そうやって聞いてくる女は好きじゃない」
「……今日だけ一緒にいてもいい?」
「今日だけじゃなくてもいてやるぜ? 好きな女は毎日いても飽きないもんだろ?」

笑顔を見せるサンドラにニヤリと笑うと、枕を退けて化魔王は彼女を抱き締めた。
まだまだ華奢で物足りないが、この子がどう成長していくのか見るのも悪くはない。

「一つだけ約束してくれる?」
「あ~?何だョ」
「絶対、絶対死なないで」

腕の中のサンドラを見て、化魔王はハハッと声を上げて笑った。

「死ぬ訳ねーじゃん。俺を誰だと思ってんだ。ピーター様一の子分、化魔王フック様だぜ?安心しろョ。それだけは絶対ないし、ちゃんとここに帰って来るから。それよりお前もちゃんと待ってろョ?勝手に家に戻ったら、また連れ戻しに行くからな」

本音も本気も分かりづらいが、嘘でもそう言う化魔王が嬉しくて、笑顔でサンドラは頷いた。
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