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睦言

・化魔王フック、土のサンドラ



「ね、起きてる?」

耳元で囁かれ、化魔王フックは「ん」と応えて目を開ける。
横を向けば、触れそうな距離にサンドラの顔があるのが暗がりでも分かる。

「眠れないのかぁ? とっとと寝ないと、朝辛いぜ?」

言ってサンドラの身体に回していた腕で抱き寄せてやると、彼女は恥ずかしそうに身をよじらせた。
伸ばされて触れる足が自分の膝ぐらいまでしかないのを感じて、小さいなと化魔王は思う。
背だけじゃなく顔も手も全部小さく、そして軽い。

「(これじゃ妙な気も起きねーな)」

まるで子供だと心の中で苦笑していると、サンドラが胸に顔を埋めてくるのでその頭を撫でてやった。

「フックってあったかい」
「そうかぁ?」
「パパもお兄ちゃんも、ちょっと変わってたのかな……」

土の大層、というぐらいだからそういう感じなのかな、と化魔王は見た事がないサンドラの家族を想像し、彼女は普通で良かったと少し思う。

「私はね、本当の娘じゃないんだって。大鬼族? っていうの」
「へぇ……」

見透かされたようなサンドラの言葉に、化魔王は彼女の頭の角に触れてなるほどと納得した。

「ネロ? っていう因子の生き残りなんだって。よく分からないけど」
「ネロ? ネロっあの、アレだろ? お前そんなスゲー奴なの?」

驚いて一瞬身体を起こす化魔王に、サンドラはかぶりを振った。

「分かんない。だって、それを聞いたのも最近だし……パパが最後に教えてくれて……ネロってそんなに凄いの?」
「そりゃお前、スゲーも何も……って何にも知らないのか?」

こくんと頷くサンドラを見て、化魔王は笑う。

「私には何も力がないのにね」
「ま、俺はお前が何だって構わないけどな」

少し寂しそうなサンドラの頭を、化魔王はくしゃくしゃと撫でた。

「もう……フックって何でもそうなのね!」
「そうって?」
「軽い」

口を尖らせるサンドラに、フックはふんと鼻を鳴らす。

「敵ならともかく、そうじゃないならごちゃごちゃ考えたって仕方ないだろ? 面倒な事嫌いなんだョ」
「でもピーターの言う事なら何でも聞くのね」
「面白そうだったからな。火の大層のバンプピーターは好き放題やってて、面白そうだったんだョ。こっち来てからは……ちょっと変わっちまったがな」

目を細めて天井を見つめる化魔王から、珍しく苛立ったものを感じてサンドラは目を瞬いた。

「フックって何がしたいの?」

サンドラの言葉に、今度は化魔王が目を瞬いてこちらを見た。
うーんとしばし考えると、小さく肩をすくめて困ったように片眉を上げる。

「よく分かんねぇな。楽しけりゃ、何でもいいんだけどョ」
「フックの楽しいって何?」
「そりゃぁ……」

言われてみて「楽しい」という事に具体的な言葉が出てこない。
ただ悪魔が優勢で暴れられれば満足か、と言われるとちょっと違う。
言葉に詰まる化魔王にサンドラはくすくすと笑った。

「何が楽しいか分からないのに、楽しければいいだなんて、変なの」
「うるせーな。ガキが小難しい事言うな」
「また子供扱いした……難しい事なんて言ってないもん」
「生意気なんだョ」

少し腹が立って、膨らんだサンドラの頬を軽くつねってやると、やり返された。

「もう、そっちだって子供みたいじゃない!」
「うるせー! 黙って寝ろ!」

睨み合っていたら可笑しくなって、どちらともなく吹き出した。
ひとしきり笑うと、サンドラが身体を寄せてくる。

「何か可笑しい。私はこうやってくだらない事で笑えるの、楽しいけどな」
「あー……まあ、そうだな。少なくともつまらなくはねぇな」
「皆でこうやって暮らせたらいいのに」
「皆でねぇ……」

何となく呟いたのであろうサンドラの言葉に、化魔王は思いを馳せる。
戦いがなく皆で和気藹々とした所を想像して、戦いばかりの今までを思い出し、そんな未来はないだろうなとかぶりを振った。
それよりもサンドラみたいなピーターの姿を想像したら、逆に背筋に寒気が走る。

「おい想像してみろ。ピーター様やフッドさんもだけどな、ハムラビやらあのおっかねぇゴーディがニコニコしてたら気持ち悪いだろ」
「そお? いいと思うけど」
「そうかぁ?」

首を傾げて自分で言った未来を想像したら、その違和感が面白くて化魔王は一人吹き出した。

「やっぱねぇな。あり得なさすぎる」
「そんなに可笑しいかなぁ」
「いや、だってよぉ……」

悪魔が皆仲良くねぇ……と思いながら、それを本気で願っているのかと思ったらサンドラの純粋さが身に染みた。
余程大事に可愛がられてきたのだろうという事が容易に想像できて、悪魔の統括する大層の癖に随分変わった所だったのだなと化魔王はまた笑う。

「また笑ってる」
「お前と俺じゃ、見えてるモノが違うんだろうなって思ってさ」
「どういう事?」
「それがいいって事だョ」

よく分からないと小首を傾げるサンドラが可愛くて、何となく化魔王はその小さな唇に口付けた。
唇を離すとサンドラが驚いて目を見開いているので、ばつが悪くなって視線を逸らす。

「……何だョ……初めてでもないんだから別にいいだろ」
「だって、いきなりするからビックリした……」
「何か、可愛かったんだョ」
「えっ?」
「あーもう寝ろ! お前に付き合って俺まで寝不足になっちまう!」

嬉しそうに目を輝かすサンドラを見たら照れ臭くなって、化魔王は誤魔化すように寝返りを打つ。

「えー! ズルい! よく分からなかったからもう一回ちゃんとしてよ!」
「うるせーうるせー! 俺はもう寝る!」
「じゃあもう一回私の事可愛いって言って?」
「ハイハイ可愛いよお前は! だから寝ろ!」
「もう! ちゃんとこっち見て言ってよー!」

揺さぶられて耳元で大声でねだられ、化魔王はサンドラを引っ張るように抱き寄せると今度はもう少し長くキスをした。

「……満足したか? 寝ろ」
「……もっとしたい」

上気した顔で言われて、柄にもなくときめいた。

「お前のせいで俺まで眠気がどっかいっちまったじゃねーか。責任取れよ?」

はにかんで頷くサンドラに微笑むと、化魔王はは優しく口付ける。

「(……まあ、これはこれで楽しいか)」

サンドラの唇の感触を味わいながら、化魔王は心の中で小さく笑った。
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