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Crescent Child

・豊幻
・バンパイアフッド、バンプピーター



大事な約束があった気がする。
大事な人がいた気がする。
思いだそうとすると苦しく、頭がチリチリと痛むので深くは考えないが。
ぼんやりと、輪郭の見えない想いが自分にはあった。

バンパイアフッドは頭を振って廊下を歩く。
水の大層に来てからはアトランチンの秘宝をデューク・アリババ、もしくはハムラビに捧げる為に尽力していた。
塗り変えられた使命を全うしようとする事に関して、何も思う所はない。
ただ、時々疼く記憶の欠片がそれをはばんだ。
何とはなしにに辿り着いた部屋の前で、フッドは吐息を吐いた。
同じく使命を上書きされたバンプピーターも、普段は嬉々としてアリババの為に動いてはいるが、時折戻って来ては自分と同じように何かが疼くのか、発作のように暴れる事がある。
しばらく放っておけば収まるし、その後は死んだように眠っているが。
フッドは戸に手を掛けると部屋の中へと入った。
あてがわれた簡素な部屋のベッドでピーターは眠っている。
外で散々破壊の限りを尽くして、戻ってきてからも暴れ、取り押さえられて今はここにいる。
ギラギラとした闘争本能が、少し羨ましいと思うと同時に、抑えきれない衝動を抱える彼女が少し痛ましかった。
フッドはベッドに腰掛けるとピーターの寝顔を覗き込む。
悪魔に墜ちても、相変わらず美しさだけは変わらない。
触れれば全てを焼き尽くすかのような彼女の頬に触れると、ピーターは少しだけ眉をしかめて反応した。
本当なら、傍にいたい相手は違った気がする。
もっと弱くて、小さくて、そして優しくて、癒された。

――あの娘は無事だろうか。

ふとフッドは思う。
頭がじりっと痛むのでかぶりを振ると自嘲気味に笑った。
あの娘―というのは誰だったか。

「……何」

うっすらと目を開けてこちらを見上げるピーターに、フッドは肩をすくめた。

「随分大暴れしたそうじゃないか」
「……暴れ足りない」

ピーターは呟くと目を瞑って息を吐く。

「ねえ、アタシ達、何の為にここにいるんだろうね」

ふと、ピーターは問う。

「アリババの為に、ここにいるのだろう」
「アリババは、何の為にここにいるの……」
「それは……」

パンゲラクシーを地獄に変える。
悪魔の蹂躙する世界にする為に、君臨している訳ではない。
メディサの目的はこの地を第二の曼聖羅にする為だった。
そのメディサを吸収したハムラビの目的は、何なのか。
この地の王になる為だとしたら、自分達もアリババも、彼の傀儡に過ぎない。
それを良しと思える程、完全に心を壊されていればどんなに楽だったか。
アリババの言う覇道とはいったい何なのか。
疑問は生まれるが、その疑問を突き詰める程の聖心も残っていなかった。
フッドは目を伏せるとピーターに背を向けてふっと息を吐いた。

「やめてよ。こっちまで気が滅入る」
「すまない。君の様子を見に来ただけだった」
「アンタは……アタシと違って落ち着いてるね。羨ましいよ」

ピーターが皮肉っぽく笑うのを感じて、フッドは「そんな事ない」と小さく告げた。

「そう? アンタも暴れたくなるの? この、やり場のない感情を、どうやって発散している?」
「私は……ほんのちょっと頭が痛くなるだけだ」
「ふうん? 羨ましいね、やっぱり」

ピーターが身を起こす気配に、フッドは振り向く。
一糸纏わぬ姿に一瞬躊躇したが、ピーターが腕を伸ばしてくるので当たり前のようにそれを受け止め抱き寄せた。

「アンタまでこっちに来る事なかったのに」

ピーターの言葉にフッドは黙る。
ピーターは強いが脆い。
アリババが創聖使影の力でピーターのクライシス化を完全な物にした時、放っておけないと思った。
だが、それは自分も同じだ。
本当はもっと守らなければならない物があった。
しかし、それすら自分の手で壊してしまいそうなのが怖かった。
怖いからこそ、同じような立場のピーターとならば、例え自分も暴走しても、いいと思った。
殺すにしても殺されるにしても、同じ思いを持つ者ならばと、フッドは思ったのだ。
だからこそ、不本意ではあったがこちらについた。
ただ、それだけだ。
そして、大事だった物の事は今はもう忘れてしまった。

「ピーター、もう少し休め。まだ混乱しているだろう」
「ハッ! アンタはいつだってアタシの事を心配するんだね。アタシにはそれが憎らしいよ。殺してやりたいぐらいにね」
「今はまだ、剣を交えるのは控えよう。私達にはまだやるべき事がある」
「真面目なのは相変わらずだね」

ピーターは片眉を上げて笑うと、おもむろにフッドに口付ける。

「抱いてよ。暴れ足りないけど……また取り押さえられるのはゴメンだ」
「それで発散できるのか?」
「傷の舐め合いは嫌いだけど……アンタも、少しは忘れられるだろ、色々とさ……。アタシも、忘れたいのさ、色々さ……」

疲れた顔を見せるピーターを抱き締めると、フッドは目を閉じた。
今はお互い行き場のない想いを誤魔化し合うしかない。

「……それが出来るだけでもマシか」

独り言ちると、フッドはピーターを抱いたままベッドに身を沈める。
想いが溢れないように。
今は――今だけでも―――
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