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アンスリウム

・バンプピーター、土のサンドラ



土のサンドラは息を吐くと、目の前で妖しく微笑を湛えているバンプピーターを上目遣いに見上げた。
バンパイアフッドのいない隙を狙うように、時折やってきてはからかうように自分を弄ぶ。
初めは抵抗したが、危害を加える気がない事が分かり、また甘美にも似た戯れとも呼べる行為に、その内彼女が来るのを待ち遠しく思う自分を感じ、サンドラは少なからず驚いていた。
同時に、不安を感じる事も否めない。
大層を破壊しに来たと豪語している相手が、一体どういう理由で自分に興味を持っているのかが分からない。
恐る恐る尋ねてみれば「可愛いから」と軽くかわされ小さく笑われる。
それが真意な訳がないと、本心を明かしてくれぬ事が、サンドラは若干不満に思っていた。
だが――

――今日は、何か違う。

サンドラはピーターの目を見つめる。
いつものように面白がっているのは確かだが、自分を見つめ返す目が、いつもより――

――どうして、そんな目をしているの?

微かに憂いを秘め、まるで愛おしい者でも見るかのようなピーターを、サンドラはじっと見つめた。

「アタシの顔に、何か付いてる?」

ふと首を傾げて問うてくるピーターに、サンドラはどうしようか悩んで視線を落とし、もう一度見上げた。

「あ、あのね……何かあったの?」

尋ねれば彼女は少し驚いたように顔を上げ、くふっと笑う。

「へぇ? アタシの事、心配してくれるんだ?」
「そ、そうじゃないけど……」

慌ててサンドラは視線を逸らそうとしたが、ピーターに顎をそっと掴まれぐいと顔を上げさせられた。
キツいつり目に吸い込まれるように見つめられ、サンドラは思わずほぅっと息を吐く。

「どうして、そんな風に思ったの?」
「えっと……その……」

どうして、と問われてもただ何となく感じただけで、サンドラは答えに窮してしどろもどろになってしまう。
そんなサンドラを見て、ピーターは手を離して軽やかに離れると、もう一度くふっと笑った。

「何もないよ」
「そう、なら……」
「良かった?」

先の言葉を言われて、サンドラはハッとして口に手を覆う。
ピーターがくすくす笑うのを見て、自分が敵である相手を気遣おうとしてしまった事に恥ずかしさを覚えた。

「サンドラちゃんは優しいのね」
「ち、違うの! ただ、ちょっと気になっただけで……」
「へぇ?」

面白そうに小首を傾げるピーターだが、やはりいつもより雰囲気が柔らかい。
サンドラはなんとなく、今日なら彼女の本意を聞けるかもしれぬと、再び彼女を見つめた。

「あの、あのね? ピーターはどうして大層を破壊するの?」

唐突なサンドラの問いに、ピーターはきょとんとして数回目を瞬いたが、フッと目を伏せると空を見上げた。

「ねえサンドラちゃん。平和な世界ってなんだろうね」
「え?」

ピーターはサンドラを見ると、少しだけ寂しそうに笑顔を見せた。

「むかーしむかし、天使も悪魔も平和に暮らせるという次界という世界を求めて旅をしている天使達がいました」
「ピーター?」

おとぎ話でも聞かせるかのように口を開いたピーターを、サンドラは不思議そうに見る。

「天使達は、天聖界を我が物にしようとする悪魔達と戦いながらも、どこかにあるであろう次界を信じて長い長い間旅を続けていました。それこそ、文字通り命を懸けてね。その結果、遂に次界と呼ばれる世界に辿り着いたのさ。そこは確かに、天使もお守りも悪魔も、争うことなく平和に暮らせてたんだ」

サンドラの不安げな顔をおかまいなしに、ピーターはそこまで言うと、今度は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「でもさ、そんな世界はね、なかったんだよ。しばらくしたらまた争い事だ。戦って、戦って、このパンゲラクシーとやらに来ても、全く同じ。どこもかしこも平和を求める癖になにも変わっちゃいないんだ。だからさ、そんな世界はブッ壊してやろうと思ってサ」

おどけるように肩をすくめて言うピーターの中に、サンドラは燃えるような怒りと悲しみとやるせなさを感じて、息を飲んだ。

「全部ブッ壊しちまえば、争う暇もないだろ」
「その為に……パパを殺したの?」
「……だからそれは、アタシじゃないって言ってるんだけどねぇ」
「…………」

視線を落とすサンドラを見て、ピーターはアハハと笑った。

「まあ、信じられないのも無理ないとは思うけどサ」
「どうして……私にはその、優しいのに……」

最後は消え入るように震える声のサンドラに近付くと、ピーターは彼女の顔を覗き込む。

「優しくしてるつもりなんて、ないけど?」
「……うそ。だったらどうして……私の事……すぐに、こ、殺せるのに……」
「はぁ? アンタ死にたいの? それとも、この大層を壊して欲しいって訳?」
「そ、そうじゃないけど……」

今にも泣き出しそうなサンドラを見て、困ったように片眉を上げて小さく吐息を吐くと、ピーターはフッと微笑んだ。

「アタシはね、サンドラちゃん。アンタには……」

そこまで言って、ピーターはチッと小さく舌打ちして目を伏せる。
次に目が合った時、その目はいつもの自分をからかう時と同じで、サンドラは「あっ」と小さく落胆した。

「……アンタと戯れてるのは、アンタを気に入ってるフッドがこれを見たらどんな顔するのか楽しみだってだけサ」
「そんな理由で……私の事を?」
「……そうだよ。昔から何でもかんでも手に入れやがって、癪に障る奴だからね。アンタをアタシが奪ってやったら、どんな顔をするのか見物だって思ってね」

くくっと肩を揺らしてピーターは笑うが、サンドラがじっと見つめてくるのを感じると、視線を逸らした。

「わ、私……」
「……やめだ。興醒めしちまった」

おもむろに片手を振るとピーターは立ち去ろうとする。
サンドラは、とっさに彼女の腕を掴んでそれを押し留めた。

「何すんだい」
「……また、来てくれる?」

ピーターは一瞬呆れたような顔を見せたが、フッと笑った。

「おかしなコ」
「だって、私もっとピーターの事知りたいの。ううん、ピーターだけじゃなくて、他の事ももっと……」
「フッドかい? だったら直接聞きゃあいいじゃないか」
「それだけじゃないの。もっと色々知りたいの……ダメ?」

ジロリと睨まれ、サンドラはもっと色々言いたい事、聞きたい事があったのだが、ついそう尋ねてしまった。
ピーターは溜息を吐くと、皮肉めいた顔でサンドラを見る。

「……気が向いたら、ね」

そう言って軽くサンドラの額に口付けると、今度こそ飛び去ってしまった。
サンドラはほっと胸を撫で下ろすと、ピーターの去った空を見上げる。

――あの人は、一人で全部背負おうとしているのかな。

改めて思ったら、決してそんなつもりはないのだが、自分達の行いが、自分達の大層だけ生き延びればいいという事と同義な気がして、サンドラは眉をしかめてかぶりを振った。

「……私、あなたの事をもっと知りたい……」

時折見せる、フッドと同じ聖心の宿ったピーターの目を思い出し、サンドラは、空に向かって呟いた。
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